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Vol.78「加点を大事にする評価」

【 コラム 】 2024.03.20

学びの応援コラム

楜 澤  晴 樹

令和6年3月20日

 

NO.78 「加点を大事にする評価」

 

以前も紹介したことがあるが、私は今、隔週で書道教室の指導をさせていただいている。いや、正確には、指導というより皆さんの書に対する熱意に惹かれて一緒に勉強させてもらっている。最年少67歳、最高齢94歳という地域のお年寄りの方々が集うが、その自ら学ぶ意欲にはいつも脱帽である。教室で新しい課題に出合って初挑戦する際には「これは難しい」というつぶやきが聞こえてくるが、その後家に持ち帰って2週の間に練習を重ね仕上げてくる書のすばらしさには、毎回目を見張るものがある。

 

本号では書道教室での拙い「指導」体験を材料にしながら、子どもに限らず、学んでいる者の学びを評価する際に大事にしたいことについて述べてみたい。本コラム76号で述べた、子どもを評価する際の「内面性の重視」にも関連する事例になる。

 

〇 「加点」 > 「減点」 の評価

教室ではまず、各自が家で練習し仕上げてきた書を皆で見合う中、適時皆さんの気付きも活かしながら添削を行う。それぞれに朱を入れて寸評を付すと前段終了で、次の新たな挑戦課題に入る。最初に若干の解説をし、必要な筆法等の説明をするが、その後1時間弱練習の時間をとる。

 

さて、その添削、評価で私が心がけている点が、標記の「加点」>「減点」 である。通常次の3段階で進める。

  • まずよいところ(点画にとどまらず)に丸を付けながら優れた点を皆で共有し、
  • 参考手本と比較して改善すべき問題点を見つけてもらい(または指摘し)、
  • 「こうすればさらによくなる」とまとめる。

 

少しこのプロセスの意図を補足しておきたい。

①は、とにかく真っ先によいところを評価するというもので、それは、「難しい」と感じながらもそこに対峙して努力を重ねてきている一人ひとりに賛辞を送ることでもある。学習者の自己肯定感を育み、学ぶ意欲を膨らめる大事な支援だと考えている。無論お世辞などではない。時には、目に見える書から、そこに至るまでの直接は見えないご苦労やご苦心を察することができて評価に添えることもある。

 

②は、主体的に学ぶ学習者の、その主体性を大事にするもので、自ら課題を見つけることから学習は始まるという基本に立つものである。教室で参考手本を紹介する際、その特徴に関する説明をしてあるので、それに絡めて表現の改善課題が見つけられることは目指す書への大きな一歩となる。文字を書く際、結構「自己流」の字格好というのが身に付いてしまっていて自分では気が付かない癖が、こうして手本に出合って書に取り組む中で初めて自己課題として認識され、改められていくということも少なくない。

 

③は、自己課題解決に向けた見通しの確認で、次なる学びへの後押しでもある。「ここがまずかった」というフィニッシュはよろしくない。「さらによくなる」ためにどこをどうするかを明確にすることが肝心で、それによって挑戦心も膨らむ。絞られて焦点化された減点は、かくして加点へと進化するのだ。

 

〇 山口利幸氏(元長野県教育長)の教えに学ぶ

私が長野県教育委員会義務教育課にお世話になっていた折の教育長が山口先生であった。先生はよく、子どもを加点主義で見ることの重要性を説かれた。本号でテーマにしている評価の在り方もそこに通じるものと考えている。

私たちは皆、子どもの望ましい成長を願うが、山口先生は、子どもに対する「こうなってほしい」「こうあるべき」といった視点が強すぎると減点主義で子どもをとらえがちになるとおっしゃる。そして、親や教師から、「○○ができない」「□□も不十分」と、減点主義の視線ばかり浴びる子どもには、自信や自己肯定感が育たないと警鐘を鳴らされる。

重要なのは、とにかく子どもを自分にとって不可欠な存在であると受けとめていることであり、その姿勢があれば、「この子にはこういういいところがある」といった加点主義の見方が生まれるのだと説かれる。

 

子どもの人格形成に直接・間接に関わる大人として、また広く学習者を指導・支援する者として、改めて心に刻みおきたい教えである。