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Vol.50「あてにされ 頼りにされて」

【 コラム 】 2023.03.15

学びの応援コラム

楜 澤  晴 樹

令和5年 3月 15日

 

NO.50 「あてにされ 頼りにされて」

 

前号「3.11に思う」で、小2の「壁新聞編集長」の活躍を紹介したが、小さな子どもの大きな力は日本中の注目を浴びた。やがて「編集長」は、両親とともに避難所を離れることになるが、大人からも子どもからも注目され頼りにされた「編集長」は、移動した後も時々避難所に通って壁新聞作りを手伝ったそうである。

 

このようにあてにされたり頼りにされたりすることでそれに応えようとする動きは、指示命令による動きとは行動の原動力が違って主体的である。続けて2つの事例を紹介したいと思う。

 

〇 「お父さんの畑仕事を頑張りたい」(小1)

それは岩村田小学校にお世話になっていたある1学期末のこと。私は、いつものように教室を訪問して子どもたちの学習の様子を参観していた。1年生のあるクラスを訪ねると、子どもたちが次々に発言して楽しそうに授業が進んでいた。その授業展開も面白かったが、壁に掲示された葉書サイズの学習カードが私を誘った。耳で授業をとらえながら、34人それぞれのカードに目を通した。

 

そこには、間もなく迎える夏休みに頑張りたいことが書かれていた。1年生にとっては、小学生になって初めての夏休みだ。様々な「がんばりたいこと」があった。宿題をきちんとやろうといった学習に関するものが多かったが、早寝早起きなどの規則正しい生活を送ろうというもの、そしてお母さんやお父さんのお手伝いを頑張るというものもあった。この、お手伝いに関する記述をしたお子さんが7人いたが、その中に、小見出しに掲げた男児のそれがあった。

10年以上も昔のことなのに、「お手伝い関連」についてはその人数まで記憶しているのは、学習カードを拝見しているうちに、それを、夏休み前に予定されている保護者向けの校長講話の材料にしようと考えた経緯からである。子どもをあてにし頼りにすることは、一見親の都合のようにも見えるが、子どもの自立を育む大事な支援でもあることをお話しした。

 

「お父さん」は、大きな果樹園を営まれていた。PTAの会合の折、校長室に立ち寄っていただいてご子息のこの学習カードの内容をお伝えし、称えた。

「小学1年生が、お手伝い感覚のレベルを超えて『お父さんの仕事をがんばる』という姿勢になっています。言われて仕方なくやるのではなく、主体的に仕事をしようとしています。何とすばらしい成長振りではありませんか。大きな果樹園の仕事をされるお父さんを子ども心に偉いと思い、そのお父さんからあてにされることがうれしくて仕方ないのでしょうね。あてにされ、結果、それに応えようとする心を育んでいる、そういう子育てに学びたいものだと思いました。」

この話に、お父さんはたいそう喜ばれて、保護者向けの講話の中で事例として紹介させていただくことも快く了解してくださった。

 

〇 「今日も安全運転をありがとう」(小6)

これは、佐久市立高瀬小学校児童会の実践例である。

佐久市では、小中学校各校の代表が参加しての子ども議会を行っている。2015(平成27)年に開催した子ども議会では、高瀬小6年児童会長のSさんから交通安全に関するすばらしい提案があった。次に紹介しよう。

 

<交通安全を呼び掛ける看板の設置について>

「高瀬小学校前の県道は、見通しの良い直線なので、スピードを出す車がとても多いです。そこで、運転手さんにスピードを落として、安全運転をしてもらえるような看板を立てたらどうかと考えました。例えば、子どもたちの笑顔いっぱいの絵を描いて、『今日も安全運転をありがとうございます。』などの感謝の気持ちを伝えるような看板があると、安全運転をする車が増え、安心して学校に通うことができると思います。市内の子どもたちから募集したポスターなどを、看板のデザインに使うのもよいと思います。」

(佐久市子ども議会議事録より)

 

さて、この提案は、その後見事に具現された。校門手前のフェンスに写真のような「看板」を設置することができた。〇〇してくださいという要求スタイルではなく、車両ドライバーの心に響くメッセージはさすが6年生だ。ポスターも6年生の共同制作となった。

 

(撮影 令和5年3月13日)

 

小学校の最高学年である6年生は、学校の顔としていろいろな場面で活躍する。この事例も、児童会長さんが中心となり、学校中で頼りにされている6年生が見事にその期待に応えた実践である。

 

学校中のみんなから頼りにされたその力は、市と市教育委員会を動かして、社会に貢献する偉業を成した。あれから8年が経つ今も、子どもたちのメッセージは輝き続けている。