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Vol.84「聴くということ」

【 コラム 】 2024.06.12

学びの応援コラム

楜 澤  晴 樹

令和6年6月12日

NO.84 「聴くということ」

 

ある日の休み時間のこと、小学5年生のあるクラスの子どもたち8人が校長室にやってきて切実な声を届けてくれた。

「校長先生、わたしたち勉強したくてもクラスがうるさくて・・・。」

 

先生の話も聞こえないほどうるさいと訴える子どもたちに2つ質問をした。

Q1「市のドッジボール大会で団結して優勝までしたクラスなのに、そういううるさい状況が収まらないの?」

A1「あっちでもこっちでもうるさくて、注意し合うのが難しいんです。」

 

Q2「クラスの授業態度をよくしようと考えている人間が、少なくとも8人はいるのに、それでもよくはならないの?」

A2「・・・。」

 

このタイミングで、校長室には約束していた来客があり、子どもたちは退室することになってしまったが、校長としても即刻対応する旨を伝え激励して見送った。

「大変な状況はわかった。話に来てくれてありがとう。〇〇先生(担任)と相談して先生たちもすぐに手を打つからね。」

 

〇 朝のスペシャル校長講話

まずは、8時半~9時の読書の時間に当該クラスで話をさせてもらうことにした。

「8人の想いをきっかけに、クラスの大事な一人一人がこれじゃいかんと思って読書の時間をもらって話しに来た。」と、突然の校長講話の導入をした。もちろん、その対応については、事前に担任から8人の了解を得てもらってのこと。

 

まず自分が授業に臨む姿に問題を感じているかどうか黙想しながらの挙手を求めたところ、多数の子どもたちが手を挙げた。続けて、「今、自分は己を高めているか?」と板書し、各自に自問を求めた。「己を高める」とはどういうことかについては、4人ほどの自主的発言により補強することができた。

 

私は何か話をさせていただくとき、あれこれと自説を述べるだけでなく、適時適切な問いを投げかけて一人一人にじっくりと考えてもらう時間をとることが重要かつ効果的であると考えている。話の対象が大人であってもである。

 

さて、スペシャル校長講話は、次の2つの提案を柱に話が続く。

 

  • 自分を高めるために(2つの提案)

【構えをつくろう】

ここで言う「構え」とは、心と体の学習に向かう姿勢であり、授業において、その構えの中で不可欠なのが「聴く姿勢」であると強調した。「聞く」と「聴く」の違いを問いながら、ただ耳に入ってくるのではなく、理解しようと進んで耳を傾けるのが「聴く」であると整理。文字の構成に注目しながら、耳で聴く、目で聴く、そして心で聴く姿勢が学習を成り立たせると力説した。この辺りからうなずきながら聴く(心で聴く姿)子どもが何人も認められた。

 

附属長野中の教官時代、担任したクラスで「聴く」という行為の高い能動性について話をしたところ、皆大きくうなずいて咀嚼(そしゃく)してくれたその映像が重なった。

 

【聴く姿勢の模範クラスに】

2つ目は、高学年のプライドをくすぐる提案であった。

「本気で聴くことにおいて、学校中の模範クラスになれ!」というもの。そういう自信が付いてきたら、後輩の3~4年生に授業参観に来てもらおうではないかと焚き付けた。聴く姿勢がしっかりすれば、こんな授業になるんだという範を示してやれるようなクラスになってほしいと期待を述べ、話を終了。

 

後日、同クラスの理科の授業を参観させてもらった。

授業後、「君たちの『聴く』は生きているね。これが持続して本物になったら例の授業参観だね。」と何人かに声をかけたら、うれしそうに「はい。」と返ってきた。

例の8人の子どもたちの中にいた1人からは、「最近、発言もしやすくなりました。」と、自分たちの変容振りを誇らしげに添えてくれた。