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Vol.81「みんなのえがお」

【 コラム 】 2024.05.01

学びの応援コラム

楜 澤  晴 樹

令和6年5月1日

 

NO.81 「みんなのえがお」

 

今日から5月。青空を気持ちよさそうに泳ぐ鯉のぼりが目に飛び込んでくる。こういう風物詩は実に心の栄養になる。

 

さてその5月だが、教職に在りし日の私が学級づくりにおいてとても重視していた月である。とりわけ新しく担任した学級では、5月が大事だと思う。新年度が立ち上がって1ケ月ほど経つこの時期は、4月当初表面に現れてこなかった人間関係の歪がみえてくることが多い。学校では、あらゆる教育活動において人権感覚の育成を大事にしているが、学級担任としては、この5月、学級集団の特に人権上の課題がないかどうかアンテナを高くし、小さな問題も見逃すことなく必要な策を講じなくてはならない。

 

〇 学級文化の醸成

私は、教頭昇任選考の際に提出した小論文で、より良い学校づくりをしていくには学級文化を醸成する営みが重要になるとした。学校集団の最小単位でもある学級は、学習集団として、また生活集団として健全でなければならない。抽象的な言い方になるが、その健全なありようのコアになるものが学級文化であるととらえている。

 

校長として学校経営を論ずる際も、そのグランドデザインの中に学級文化の醸成を謳った。そして、学級集団が共有したい価値観を生み出すために次の2つの視点をもつとよいと助言した。

①「何を大事にする集団か」

②「何を許さない集団か」

この2つは、教師が自分の学級経営を問う視点であると同時に、子どもたちが自分たちの集団の健全なありようを自問する視点にもなるように思う。

 

こうした取り組みの中、「互いに支え合い高め合う学級」を目指して、そのためには「嫌な想いをする人間が一人もいない学級」でなければならないと価値観を練り上げながら歩む学級があり、その成長を見守りながら私も多くを学ばせていただいた。

 

〇 「岩小かるた」から

佐久市の岩村田小学校が開校140周年を迎えた平成24年、時のPTA会長丸山氏の提案で1,071名の児童とその保護者の皆様の力を結集して「岩小かるた」を作ることになった。

膨大な数の応募で選考も一苦労であったが、丸山会長さんの見事な采配のもとすばらしいかるたが出来上がった。

 

その中に次に紹介する作品があり、私は教育長時代にも人権関連の会議等で何度かこれを引用させていただいた。かるたはすべて名前入りで制作されているので、固有名詞も出しながら紹介させていただくことにする。

 

 

5年生の丸山覚君作の読み札に、4年生の神津海都君が絵札を考案して誕生した傑作である。まず注目すべきは、みんなが笑顔でいることがうれしいとする丸山君の感性だ。「今日は遠足うれしいな」のうれしさと違い、自分自身に素敵な出来事があってうれしいというのではない。一人ひとりの輝きを大事にし、一人ひとりの心の痛みにも寄り添える集団が育っていることが窺える作品ではないかと思う。神津君の絵札も見事。四隅に描かれたニコニコ顔の友の表情を見ていると、確かにうれしい気分になる。更にその視線が自分を見守ってくれているような気がして、そこに何か不思議な力を感じる作品である。

よく、授業中の発言が少ない子どもに間違えることを恐れないよう指導する事例を聞くが、このかるたにあるような集団の中では、間違えることも含めて個性あふれる自分を躊躇なく表出できる。個の間違いから皆が学びを深められることに感謝する、そんな学級文化が薫る授業が展開されることを願って止まない。