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Vol.73 「理想の現実」

【 コラム 】 2024.01.10

学びの応援コラム

楜 澤  晴 樹

令和6年1月10日

 

NO.73 「理想の現実

 

新年おめでとうございます。自作年賀状の画像を添えてご挨拶申し上げます。

縁取りなしでも存在感を出すために敢えて明るさを落として貼り付けてみました。

 

ここで、いつもの常体表現に戻らせていただく。

 

ところで、今年は新年早々「令和6年能登半島地震」、日航機と海保機の衝突による事故等々悲報が続いてしまった。亡くなられた方のご冥福をお祈りするとともに、ご関係の皆様、そして被災された多くの皆様に心よりお見舞いを申し上げる次第である。

 

そして大変残念なことだが、世界では、ロシアのウクライナ侵攻に始まった戦争、パレスチナ・イスラエル戦争など、その破壊行為が多くの人々の生命・財産を今も奪い続けている。病院や学校、遺跡なども攻撃の対象となって、人類が長い年月をかけて創り上げてきた社会、文化が瞬時にして破壊されている。それは災害や事故と違い、破壊を意図する人為によってである。地球上に人間らしく生きている大多数の者にとっては信じられないような無残な光景が頻繁に報道されるこの現実が、今年こそ何とかならないものかと願うけれども、その光明が見えてこない。

学校においては、あらゆる教育活動において人権を大事にしているが、戦争は人命までも軽視するとんでもない人権無視をして力による現状変更をしようとするものであり、人格の完成を目指して営まれるところの教育に与える打撃も計り知れない。

 

〇 学校教育で大事にしていること

学校現場でも、子ども同士のトラブルは発生する。特に低学年では喧嘩騒ぎになることだってあるが、そういう時こそ大事な教育の場面になる。教師は、暴力行為があればまずそれを制止し、必ず双方の言い分を聞く。すると、「〇〇ちゃんが先にたたいてきたから」とか、「悪口を言われたから」、「勝手に人の物を使ったから」など、子どもたちなりの様々な「正論(?)」が出てくる。

対抗しなければ負傷してしまうといった特殊事情も稀にあるが、よくお目にかかるのは、「やられたからやり返す」論で、先に手を出した方が悪いのはもちろんだが、やり返しの暴力は悪くないとする考え方である。悪口には悪口で対抗し、落書きされたら落書きをして返し、たたかれたらたたき返すといった具合で、結局双方が「怪我」をすることになる。

 

そこで教師は、暴力行為を全面否定しながら、静かにこんな話をする。

「先に手を出した友達はもちろん悪い。あってはならないけしからんことだ。しかし、『目には目を、歯には歯を』とやり返すことで解決になるかな?先に手を出したのと同じレベルで争うことになっちゃうよね。どうすることがよいだろうか?」

 

情況はまちまちなので具体的な対応は異なるが、とにかく暴力は許されないし、暴力によって問題が解決することはないことの指導は折に触れて繰り返している。

 

〇 ところが世界では

ロシアがウクライナに侵攻したというニュースを初めて聞いた時、「そんなばかな!きっとフェイクニュースだ。」と捉えたのは私だけではないと思う。その信じ難いことが現実に起こってしまっており、その行方はもちろんのこと、世界各国がこれからどんな方向に進むことになるのか本当に心配だ。

現状では、「力による支配」を進めている国や進めようとしている国があることが大問題だが、一方で力を増強することで「力による支配」をなくそうとする動きがあることも顕著で、その目指すところと方法論には明らかに矛盾がある。わかってはいるが、とんでもない輩がいるので止む無しというこの現実も、真の平和を希求する人類として、いつの日か変えなくてはならない。

 

力による威圧効果も、平穏を保つのに有効なものと思えなくもないが、子どもたちに失礼なたとえ話にしてみると、腕力の強い者がお山の大将になって我が儘し放題になり、弱者がものを言えない集団になってしまうというような状況を招く恐れ大である。

 

〇 理想の現実

以前、ある書初め展の会場で、珍しい作品に出合った。中2のコーナーだったと思うが、「理想の実現」という作品が並ぶ中に「理想の現実」という秀作があった。ミステイクなのかもしれないが、そこに「理想と現実がかけ離れているのではなく、理想が実現したならば理想の現実が到来する」という、少年の未来への期待を垣間見た気がした。

 

世界が核をはじめ軍事力の強化を競うことのない「理想の現実」と言える日の到来を切に願いながら、まずは今、将来を担う子どもたちが人間としての大道を踏み外すことのなきよう、教育の寄与するところに期待を新たにする正月であった。