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Vol.63「卵焼き初挑戦」

【 コラム 】 2023.08.23

学びの応援コラム

楜 澤  晴 樹

令和5年 8月 23日

 

NO.63 「卵焼き初挑戦」

 

教職を退き、そして教育長を退任した今日、たまにではあるが料理に挑戦している。実は、小学生時代の調理実習以外に調理の勉強をしたことは皆無。教職に就いた独身時代に若干の自炊をしたことはあるが、自己流でいかようにもなるみそ汁と野菜炒めにとどまっていた。単身赴任の校長時代は、家内が1週間分の手料理を作りに来てくれて、それを、冷蔵、冷凍しておいてメインディッシュとしていた。佐久の実家に戻ってからも、自宅の庭でバーベキューをする際の火起こしと焼き肉を担当するのがせいぜいであった。

 

さてここで、自己弁護になるが、事の背景を理解していただくために、少し私の子どもの頃の話をしておこうと思う。小3で父が亡くなってから、母方の祖父がよく我が家にきてくれた(父方の祖父母は既に他界していた)。祖父は昔気質の一徹な人で、ある日小学生の私がお勝手(台所のこと)の手伝いに立とうとした時、「男はどしっと座っているもんだ」と制した。それは、私に、亡くなった父に代わって一家の主になっていかなくてはならないという自覚を促す祖父流の指導なのであった。

 

そんなわけで、その後調理や食事の後片付けに関わることはほとんどなく、ただし人一倍(いや正確には三倍かもしれない)食べさせてもらって大きくなった次第である。小学生時代に尊敬する大人から教示を受けたことが、頭から消えることなくその後の自分の歩みとなった。子どもと関わる我々大人は、いい意味でも悪い意味でも自分の言動にそうした影響力があることを十分踏まえていたい。

そろそろ本題に入ろう。読者諸氏は驚かれるかもしれないが、つい先日、生まれて初めて卵焼きに挑戦した。家内には別室にいてもらって、とにかく自分だけで「スペシャル卵焼き」に挑戦し、家内に喜んでもらおうと思った。

 

〇 「スペシャル卵焼き」

卵焼きは手ごわかった。人生初の挑戦で出来上がったそれは、見るも無残な姿となった。四苦八苦して折りたたんではみたが、真っ黒に焦げた皮で覆われて皿に移された「卵?」焼きは、家内に証拠写真を撮られてしまった。皆さんがご覧になると食欲が無くなるだけでは済まない恐れがあるので、ここに掲載するのは止めて話だけにさせていただこうと思う。

 

私は、パン食以外の朝食には必ず好物の納豆をいただく。そして、私の発案だが、夏、自家用野菜が食卓に上る時期には、その納豆にピーマンのみじん切りが混ざる。そこに生卵を加えてもよいが、とにかく、細かく刻んだピーマンを混ぜた納豆は旨い(と思うのでよかったら試されたい)。さて、今回はこの、納豆、ピーマン、卵の名コンビを「スペシャル卵焼き」にドレスアップするはずであった。

納豆1パック、ピーマン1個(みじん切り)、そして卵2個を十二分に攪拌した。そしていつもいただく卵焼きに甘みもあったことを思い出して砂糖が必要だと思ったが、スペシャル度を増そうと考えて、そこに大さじ1杯の蜂蜜を加えた。納豆のタレとカラシに醬油も少々追加して原材料はすべて整った。

 

〇 「解決しないではいられない問題が生じたとき、人間は思考する」(本コラム61号より)

卵焼きは、少なくともそれを食してきたというだけで、調理できるものではないことがよく分かった。今回の挑戦では、私が持ち合わせていた甘い考え方では太刀打ちできない事態が待っていた。

 

フライパンに油を引いて加熱し、溶いた卵が入るとジューッと音がする程度のタイミングでそこに一気に先の原材料を注いだ。そして適当なところでフライパン返しを使って折りたたもうと思ったのだが、なかなか液状の上層部に変化が見られず、手を加えられる状態にならない。そこで火を強めにしてみた。見る見るうちに煙が出て、フライパンに接触している下部が焦げていることを知る。そこで加熱をやめた。円形に広げられた卵たちは下部が真っ黒こげになってたたまれることになった。もはや食卓に供されるレベルではなかった。

2回折りたたんだことにより、表面の黒焦げは内部まで侵入してしまっていた。自分は卵焼きひとつ作れないという現実には、けっこうなショックを覚えた。

 

ほとんど廃棄せざるを得なかったが、収穫が無いわけではなかった。卵焼きは素人が考えるほど単純なものではないことを体験を通して知り得たこと、そして大失敗の原因を解明してまともな卵焼きを作る改善策を思考するに至ったことである。

 

まずは、家内に頼るのでなくインターネットの力も借りずに、自分の頭でよく考えてみたい。そこには謎解きの魅力もある。現時点の考えでは、一度に全部の原材料をフライパンに広げてしまうと今回のような事態は避けようがなくなるのではないかと分析している。卵を無駄にしないように気を付けながら、さらなる挑戦をしたい。乞うご期待!