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Vol.52「新たな挑戦に向けて」

【 コラム 】 2023.03.29

学びの応援コラム

楜 澤  晴 樹

令和5年 3月 29日

 

NO.52 「新たな挑戦に向けて」

 

令和4年度4月から始めたコラムも本年度の最終号となった。何をテーマにするか思案したが、間もなく進級、進学を迎える皆さんの「新たな挑戦に向けて」、応援歌を送ろうと思う。これは、私が教育長時代、佐久市の「チャレンジ教室」を巣立っていく中学3年生にお伝えしていた話でもある。

 

 

同教室は、不登校(傾向を含む)の小中学生のお子さんのために校外に設置した中間教室で、在籍校と連携しながら、彼らの多様な挑戦を支援している。毎年3月中旬になると、在籍校での卒業式に先立って、義務教育を終える中3の生徒たちのために卒業を祝う会を開催する。それをもってチャレンジ教室修了となる。

 

その会の冒頭、卒業生に向けた話の中で、私は毎年ある著書を紹介してきた。広中平祐氏の「青年の翼 若い日本人のための12章」(編著 パナジアン)である。そこに述べられている「挑戦」に向けて大事にしたい考え方を心に刻んで船出してほしいからだ。広中氏は、ご案内のとおり世界に名の知れた数学者で、1970年には数学のノーベル賞とも言われるフィールズ賞を受賞されている。ハーバード大学名誉教授でもあられ、アメリカをはじめ世界各国の多くの若者に接してこられた氏が、若い日本人のためにと紡ぎ出されたメッセージ満載の同著書は、少なくとも中学生、高校生、大学生にとっては必読書だと私は考えている。

 

 

さて、「卒業を祝う会」では、12章の中の第7章「挑戦、そこに人生」から一部引用し、はなむけの言葉とした。

 

 

〇 「挑戦、そこに人生」より

 

第7章は4つの項立てから成るが、その中に「他人との競争はマイナス」がある。そこに紡ぎ出されている広中氏のメッセージは、本物の挑戦心を喚起してくれる。以下文責楜澤にて一部を抜粋し紹介する。

 

 

【 (略) チャレンジとは、独自の『目標』に対する挑戦であり、他人との競争ではない。他人との競争意識が過熱すると、そこに気を取られ、目標そのものの達成のための精進にマイナスの力が加わる。そこに落とし穴がある。他人を意識し、自分との比較にあけくれ、嫉妬心が強まり、批判を気にするようになる。つまり人間が防御的になる。(略)

 

チャレンジは、その目標を自分自身の中に置くものである。目標達成に全力をあげていれば、他人との比較に注意を向ける余裕さえなくなるはずだ。すぐれたスポーツマンは、一度試合に臨むと、最終的な勝敗さえ忘れて、いいプレーをすることに全力をあげる。結果的には、それが勝利につながるのである。】

 

 

いかがか。「挑戦、そこに人生」というタイトルにまず引き込まれるが、その「挑戦」は、独自の目標に対する挑戦であり、他人との競争でも他人との比較でもないと力説される。

 

誰しもこれまでに様々な挑戦をしてきているが、順風満帆ばかりではない中、時には失敗することもある。そこに、同様な挑戦をして成果を挙げている他人がいれば、我が身がみじめになることだって自然だ。ところが広中氏は、他との比較において自分がみじめになるようなことは、本物の挑戦にあらずと説かれる。

 

 

これから新たな挑戦を始めようとする若者に、氏のメッセージはきっと「必須アミノ酸」となってはたらくものと思う。

 

 

〇 本コラム第15号「よりよく生きている事実を」に重ねて

 

コラム15号の結びの部分を再掲する。

 

 

【ある絶対値に到達しているかどうかは比較的見えやすく評価もし易い。しかし、仮に期待されるところに到達していなくても、去年より今年、昨日より今日、前回より今回、どう前進しているかをみていくことが、人間を前向きにさせてくれるように思う。ただ、当人も周囲の者も、その「よりよく生きている」事実を見逃していることが少なくない。】

 

 

「よりよく」というのは、これも言うまでもなく、他人と比べてではない。己の過去と比べてである。