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Vol.41「耐雪梅花麗 経霜楓葉丹」

【 コラム 】 2023.01.11

学びの応援コラム

楜 澤  晴 樹

令和5年 1月 11日

NO.41 「耐雪梅花麗 経霜楓葉丹」

 

 前号で、孫の書初めの指導で私が学んだことを述べた。本号では、今年私が書初めにした題材に関わって、その訓(おし)えるところに改めて学びたいと思う。諸事情から、私の書初めは1月4日になった。

 

選んだ題材は本号タイトル後半の「経霜楓葉丹(霜を経て楓葉丹し)」である。実は、前半の「耐雪梅花麗(雪に耐えて梅花麗し)」は教育長退任を機に下の写真のように作品にしており、その続きを今年の書初めで挑戦したいと考えた。現在、軸表装中でまだ仕上がってこない。

 

 

ところで、本号タイトルにもさせていただいたこの題材は明治維新の三傑、西郷隆盛が詠んだ漢詩の一部である。教育現場でも取り上げられることが多く、この漢詩の書が掲額されている学校が結構ある。

 

読みを添えたので以下は蛇足になると思うが、一応直訳に近い解釈を付すと「梅の花は雪(冬の厳しい寒さ)に耐えるからこそ麗しく咲くし、楓(かえで)の葉は(冷たく厳しい)霜に遭うからこそ美しい丹(あか)色を呈する」となろう。

 

中学校でも、小学校でも校長講話の題材にしたことがあるが、多くの子どもたちが梅の花や楓の葉を人間に置き換えて考えてくれる。様々な苦難を乗り越えてこそ、それぞれの命が輝く自己実現ができるという教訓が、自然の事象に重ねて見事に表現されている漢詩だ。此度のサッカーワールドカップでの日本の活躍で盛んに叫ばれたが、まさに「ブラボー!」である。何度噛みしめてもその味が薄まることはない。

 

 

〇 西郷隆盛が外甥に贈った漢詩

 一貫唯唯諾  従来鐵石肝

貧居生傑士  勲業顕多難

耐雪梅花麗  経霜楓葉丹

如能識天意  豈敢自謀安

 

 

西郷隆盛は、外甥の政直(妹の長男)のアメリカ留学に際しこの自作漢詩を贈った。いろいろな苦難は伴うだろうが、いったん留学を決意したからには、初心を貫く覚悟が必要であると説き、励ましている。本号で取り上げたのはアンダーラインを付した第五句と六句である。

 

 

校長時代、自校の職員の男性ALT(アメリカ人)が日本の女性を射止めて結婚することになり、職員でお祝いの寄せ書き色紙を贈ることになった。私はその真ん中にこの第五句、六句を認めた。そして本人には、「これから始まる結婚生活が雪や霜のように大変なのでそれに耐えなさいという意味ではなく、時には寄せ来る荒波もあるだろうが、2人で絆を強めながら乗り越えていけば、それが2人の人生を益々豊かにすることになるという意味である。」と、ブロークンイングリッシュを駆使してくどい解説をした。

 

〇 苦労なことと楽なこと

 

子どもはもちろん、我々大人でも、苦労なことと楽なことの2つの選択肢があって、選択に伴う様々な影響等は考えなくてよいということになれば、喜んで後者を選ぶのではないかと思う。しかし、苦か楽かを超えて大事なこと必要なことが自覚できれば、前者であってもその道を主体的に歩むようになる。やはり、苦しくてもそれを乗り越えて真に深い喜びを味わう経験を多く積みたいものである。

 

 

よく、「感動は山の上にある」と言われるが、中学校登山を何度も引率して、多くの生徒がその実感を得ている事実を目の当たりにしている。ご来光を仰ぎながら、苦労して登頂したことのすばらしさを全身で感じとるのである。登山する前に抱いていた「苦しくて大変な登山」は、「苦しさ故に感動が大きい登山」に変わる。

 

 

個々の人間にとって、様々な「雪」や「霜」があろうが、それを乗り越える挑戦により、かけがえのない自分に、かけがえのない実りがもたらされるはずである。