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Vol.34「宇宙人って本当にいるんですかとの問いに」

【 コラム 】 2022.11.17

学びの応援コラム

楜 澤  晴 樹

令和4年 11月 17日

 

NO.34 「宇宙人って本当にいるんですかとの問いに」

 

 

先週11月8日、皆既月食をご覧になった方が多かったかと思う。今回は天王星の惑星食を伴ったことでも大きな話題を呼んだ。この惑星食が皆既月食と同時に起こったのは、何と442年前の織田信長の時代で、土星が月の影に隠れたとのこと。ところで、天王星は肉眼で観測できるギリギリの6等星級。月が皆既食で暗くなったことで何とか肉眼でも観測できたという方もおられるかと思うが、視力があまりよろしくない私はダメであった。そこは、望遠鏡で撮影された映像情報で確認した次第。

 

 

ところで、天王星が話題となった今回の天体ショーに臨んで、ぜひ本コラムで紹介しようと思ったことがある。それは、ご記憶の方もおられるかと思うが無人宇宙探査機ボイジャー2号にまつわる話だ。時は、私が佐久市の臼田中学校(当時は臼田町立だった)で教鞭を執っていた1989年(平成元年)に遡る。まずボイジャーと臼田の関わりについて若干の説明をしておかねばならない。前置き、導入が長くなってしまうことをお許し願いたい。

 

 

  • ボイジャー2号打ち上げ

 

ボイジャー2号は、1977年8月、NASA(アメリカ航空宇宙局)により打ち上げられた。その使命は、木星より遠くの外惑星(地球より外側にある惑星の総称)やそれらの衛星の探査である。とりわけ、天王星と海王星に最接近して鮮明な映像を地球に送信してくれたことで有名だ。

 

1986年には天王星に最接近し、未知の衛星10個の発見をはじめ多くの成果を挙げた。そして私が臼田中学にお世話になっていた1989年8月には、海王星に最接近した。地球の1/3000の太陽光しか届かない海王星を、時速9万㎞で飛行しながらブレを起こさずに撮影した技術には圧倒された。実は天王星、海王星の探査において、次に紹介する臼田宇宙空間観測所が大貢献している。

 

 

  • 臼田宇宙空間観測所(Usuda Deep Space Center)の貢献

 

臼田町(現在は佐久市臼田)は「星のまち」としても有名になったが、それはJAXA(宇宙航空研究開発機構)の研究機関である宇宙科学研究所が、同町にこの宇宙空間観測所を設立したことが大きく寄与している。直径64mのパラボラアンテナは遠くからでも目立つ。最近では、小惑星探査機「はやぶさ」との通信もおこなっている。

 

繰り返しになるが、ボイジャー2号による天王星や海王星の探査において、重要な一役を担ったのが臼田宇宙空間観測所である。NASAの人材が同観測所に派遣されて、日米の協力体制のもと、ボイジャーの偉業は成し遂げられた。

 

 

  • NASAのスタッフを教室に

 

さて、やっと本題に入る。既に紹介したが、ボイジャー2号が海王星に最接近し、その探査を成功させたのは1989年。私は臼田中学校で理科の教科主任をさせていただいていた。

 

2学期後半のある日のこと、3学年の学級担任O先生が理科研究室に見えた。O先生は数学科であった。そして、いつになく丁重に「楜澤先生、お願いしたいことがあるのですが・・・」と切り出された。この時点で、かなり無理なお願いをされる予感がした。

 

 

「今、英語科に通訳のお願いに行ってきたのですが、断られてしまいました。実は私のクラスで、臼田宇宙空間観測所に来られているNASAのスタッフの方をお招きして、ボイジャー2号に関するお話をしていただこうということになりまして、観測所にお願いに行ってきました。ダメもとで伺ったのですが、何と実現できる運びになったのです。ただ、通訳は学校の方で考えてくださいということでしたので、英語科に頼んでみたのですが、宇宙関連の専門用語が飛び交う話を通訳するのは無理だという訳です。その際英語科から、楜澤先生にお願いしてみたらどうかという案をいただき、こうしてお願いに上がりました。先生、是非お願いします。」

 

 

物理や化学の話ならまだしも、宇宙のことは専門ではないのでと難色を示してはみたが、O先生の熱意と、NASAのスタッフの方と話ができる魅力とから、結局承引してしまった。

 

 

  • 宇宙人って本当にいるんですか?

 

いよいよその当日だ。幸い、話の骨子がペーパーで用意されており、その通訳は我ながらうまくいった。最後に生徒からの質問を受けてくださった。

 

ここでは2つだけ紹介させていただく。特に2つ目の質問のおもしろさ、それに対するお答えのすばらしさを感得していただきたいというのが本号を発信した私の動機である。

 

 

Q1:今回の仕事で、最も難しかったのは何ですか?

 

A:ボイジャー2号から送信してくる電波信号を最適な条件でキャッチすることです。シグナルをモニター画面の中央にキープし続けなくてはなりません。皆さんの臼田にある直径64mのパラボラアンテナがいい仕事をするために、私たちもベストを尽くしました。

 

 

Q2:宇宙人って本当にいるんですか?

 

A:いい質問ですね。宇宙人(space alien)、生命体(life form)は今のところ発見されてはいません。しかし、宇宙人、生命体が存在しないという証明はなされていない。ボイジャー2号には、宇宙人などに出遭う可能性を考えて、地球の生命や文化を伝えるゴールデンレコード(Voyager Golden Record)を積んでいます。

 

 

2番目の質問は、普段の授業では発言することが少ない生徒から。「いい質問」と褒められた彼のうれしそうな顔は輝いていた。「存在しないという証明はなされてはいない」とは何と科学的な答えだろうか。また、ゴールデンレコードの話は生徒たちの夢や探究心にも火をつけた。その後何人も理研を訪れては、私とボイジャー談議に花を咲かせた。