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Vol.33「好きな勉強・必要な勉強」2

【 コラム 】 2022.11.09

学びの応援コラム

楜 澤  晴 樹

令和4年 11月 9日

NO.33 「好きな勉強・必要な勉強」 ~2~

 

「好きなこと・ものだけでなく必要なこと・ものも」というテーマのもと、前号では中学校の選択教科における「自己課題に立ち向かう選択」の話をした。本号でも、自己課題に立ち向かって挑戦した中学生の事例を2つ紹介したい。前号に続く2つ目、3つ目のエピソードになる。

 

  • 英語弁論への挑戦

 

 

校長初任のある中学校でのこと。自己課題に立ち向かって英語の弁論大会に挑んだA君がいた。その挑戦に私たちが学ぶところが何と多くあったことか。紹介したいと思う。

 

 

彼の学級担任のU教諭は、英語の教科担任でもあった。ある日、U教諭から次のような報告と相談を受けた。

 

「今年は英語の弁論大会にうちの生徒が挑戦します。授業で大会の紹介をしたところ、その翌日、A君から挑戦したいとの申し出がありました。それから、発表原稿づくり、スピーチ練習と頑張ってきています。つきましては、本番を前にリハーサルとして全職員の前でスピーチをする機会をとっていただけないでしょうか。」

 

 

私はもちろん即答で了承。

 

本番が近づいたある水曜日のこと、定例の職員会を始める前にそのリハーサルを実施した。U教諭の進行で、A君は全職員の前に立った。すでに十分な練習を積み、心の準備もできていた。原稿は一応机上に用意されていたが、それを一度も見ることなく、聴衆役の職員を見渡しながら堂々と弁論発表ができた。実に見事であった。終わりに、私から激励の言葉を差し上げたが、それに続いて本人が決意のほどを熱く語ってくれた。これがまたすばらしかった。その決意を聞いて全職員が再び感動してしまった。

 

その時のA君の言葉を忠実に拾いながら私は次の詩にして、本人了解のもと、後日弁論大会に向けた壮行会で全校に紹介した。

 

 

         「英語弁論への挑戦」 

 

            英語

   僕はそんなに得意な方ではない

   でも そんな自分が

   大勢の前で

   今後一生ないかもしれない

   英語のスピーチをする

   この機会を求めて

   大事にして

   精一杯挑戦してきたい

 

 

 

何と自己啓発の姿勢に満ちていることだろうか。「そんなに得意な方ではない」という言葉にはもちろん謙遜が含まれていようが、彼がU教諭のアドバイスを得ながら、同校ではそれが5年ぶりの大会出場となる挑戦を決意し、それを成し遂げるのである。「大勢の前で英語のスピーチをする」ことも含めて、自分が課題としていることに立ち向かい、自ら求めて自己を高める機会としている。そんなA君の挑戦に、全校から体育館が割れんばかりの拍手が送られた。

 

 

  • 家庭学習の充実に向けた挑戦

 

 

以前(NO.9「家庭学習の充実に向けて」で)、「やらされる勉強」から脱却するためにもまずは家庭学習の「質」を改善したいという話をさせていただいた。繰り返しになるが、家庭学習を主体的な学びにするために、自分にとって何が「必要」なのかを考えて自己課題を明確にし、計画的に家庭学習を進めたい。

 

 

 

さて、これも好事例になるかと思う。ある中学校で、授業と両輪を成す家庭学習の充実をテーマに校長講話を行ったときのことである。1学期の中頃であったと記憶している。講話後にはいつも生徒の感想等が届けられたが、この日も貴重な声を多くいただくことができた。

 

その中に、次に紹介する詩があった。講話を基に自分の家庭学習をこのように改善していきたいと決意し、その決意を詩にした中3のB君の作だ。彼は、家庭学習を「石垣づくり」であると表現した。ちなみに、その「石垣」という言葉は私の講話で用いたものではない。

 

 

 

  「家庭学習は石垣づくり」 

 

    欠けている石を見つけ

    ぐらついている石を見つけ

    新たに積む石を考え

    より確かな石垣をつくる

 

    家庭学習は

    自分をつくる

    大事な 石の積み上げである

 

 

 

「欠けている石」や「ぐらついている石」を見つけることは、説明するまでもなく、自己課題を明確にすることである。この詩は、全校生徒が折に触れて家庭学習に対する自覚を新たにするよう、書にして校長室前の廊下に掲額させてもらった。これが、生徒だけでなく多くの来校者の目にも留まり、時折うれしい話題となった。その扁額は、卒業式後、本人とお母様に立ち寄っていただいて差し上げた。

 

後日、高校に入学したB君から、「石垣づくり」は今も続けていて充実した高校生活を送っていますとの近況報告が届いた。