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Vol.31「好きな食べ物・必要な食べ物」
【 コラム 】 2022.10.26
学びの応援コラム
楜 澤 晴 樹
令和4年 10月 26日
NO.31 「好きな食べ物・必要な食べ物」 |
本号と次号で、「好きなこと・ものだけでなく、必要なこと・ものも」というテーマを据えてみた。「こと・もの」では中身が広すぎるので、本号では食べ物について、次号では勉強について考えてみることにする。
- 食べ物の好き嫌い
昔から多くの家庭で子育てに欠かせないしつけのひとつとしてよく言われてきたことに、「食べ物の好き嫌いをするな」がある。しつけの中でも、生きていく基本として重要なステイタスをもっている。いや、「もっていた」の方が実態に近いかもしれない。昨今、好きなものを好きな時に好きなだけ食べるという食生活が気になる程度に散見されるからである。
「好き嫌いはするな」が市民権を失いかけているような気がしないでもない。
ここで突然私の姉が登場するが、姉は生卵が大の苦手であった。子どもの頃、卵かけご飯が出た朝は、父親に怒られないように、タイミングを見計らって茶碗を戸棚の奥に隠してから登校したこともあった。これは、「嫌い」というよりは体がうけつけないレベルであったように思う。卵焼きなど、調理したものは問題なかった。
父は、自分が病気がちであったせいか、食べ物については「必要」な栄養という考えをよく子どもたちに話してくれた。ちなみに、私は幼児期に健康優良児で表彰されているが、幼児の頃から父の勧めでチーズをよくいただいた。昭和30年代の前半だったが、初めてチーズなる物体に出合いそれを口にしたときには、石鹸を食べるような錯覚も手伝って鼻をつまんで飲み込む情況であった。しかし、その後好物の仲間入りをした。私がやがて180cmを超える身長に育ったのは、子どもの頃たくさん乳製品をいただいたからだと推測している。
食糧不足、物不足で、好き嫌いをしていたら生きていくことができなかった時代から、食料も豊富にある時代となった今日だが、それによって好き嫌いが助長されている傾向はないだろうか。
最近ようやく、食べ物の好き嫌いが様々な問題を直接、間接に引き起こしていることがそこここで取り上げられ始めた。心身の健康を支える食であるのだから、学力向上やもっと大きい言い方をすると人格形成に影響が出ないはずがない。命を育む基本なのである。体がうけつけないとか、アレルギーの問題は別として、「好きな食べ物」に加えて、「必要な食べ物」という考え方を培って健全な成長を支えていきたいものだ。
- 「早寝早起き朝ごはん!」
少し古い話題になって恐縮だが、ある自治体の学力テストと生活実態調査の結果から、平成17年8月の日本教育新聞の記事に、「朝食摂って学力向上を」という見出しまで登場した。もちろん、「学力向上のために朝食を摂りましょう」という短絡的な発信でないことは承知の上だが、異常感を禁じ得ない。文科省が、「早寝早起き朝ごはん」を呼びかけざるを得ない実態があったことも、教育者として、というより国民の一人として深刻に受け止めたい。
朝食抜きで、好きなものを好きな時に好きなだけ食べるという食生活が、個性尊重や多様性重視の衣を着て是認されてしまうような事態は避けたい。
- 「食育推進の目標」から
平成17年、「食育基本法」(農水省)が制定されたこともあり、学校現場ではそれまで以上に食育に力を入れてきている。同法に基づき「食育推進基本計画」が策定され、5年毎に更新されているが、最新の令和3年に策定された第4次食育推進基本計画(2021~2025)から、一部抜粋して紹介したいと思う。
そこには「食育推進の目標」として全16項目が掲げられたが、以下に本号で話題にしてきた内容に関わるもの4つを抜粋してみた。
【食育に関心を持っている国民を増やす】
【朝食又は夕食を家族と一緒に食べる「共食」の回数を増やす】
【朝食を欠食する国民を減らす】
【栄養バランスに配慮した食生活を実践する国民を増やす】
食育は、子どもたちをはじめ特に若い世代(これから親になっていく可能性の高い世代)を重視した推進が図られているが、まずは私たち大人一人一人の日常のあり方が重要だと考えている。望ましい食生活なくして健康な心身はつくられないこと、そして健康な心身なくして自分づくりの営みは成立しないことは、そういう言葉ではなく私たちの日常の姿(実践)こそがよく物語るのだと思う。諸問題に直面してから日常と乖離したことを口先で説くのでは説得力がない。
日本人が大事にしてきた食文化の担い手が「絶滅危惧種」になってしまうことのないようにしたい。