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Vol.23「小4での世紀の大発見?」

【 コラム 】 2022.08.31

学びの応援コラム

楜 澤  晴 樹

令和4年8月31日

NO.23 「小4での世紀の大発見?」 

 

 前号で化学の話題を出したついでに、我が小4時代の「世紀の大発見?」の話を紹介したいと思う。当時、小学校にも週一だったと思うがクラブの時間というのがあって、私は理科クラブに所属した。物作り大好き少年の心を惹きつけるものが多くあって、あれこれ迷うことなく、理科クラブを選択した。主翼の長さが1mを超えるグライダーづくりなど、苦労したり工夫したりしたことを鮮明に記憶している。私の作ったグライダーは、校庭上空を長らく旋回していてなかなか地上に降りてこない優秀な出来であった。

 

さてその魅力満載の理科クラブで行った酸素発生の実験を、家に帰って追実験したときのことである。「世紀の大発見?」のエピソードを紹介しよう。

 

 

  • 酸素を発生させて性質を調べよう!(クラブでの実験)

ある日のこと、理科クラブで酸素を発生させてその性質を調べる実験を行った。

薄い過酸化水素水に二酸化マンガンの黒い粉末を加えると、過酸化水素水が分解して酸素が発生する。ブクブクと気泡になって発生する酸素は、水上置換法といって、水を満たした試験管などの容器を水中に逆さに立てて泡の出口にもっていくと、水と置き換わって軽い気体が上からたまってくるのだ。

捕集した酸素の中では、炎を消した線香がポッと音を立てて燃え上がったり、マッチの燃えさしに再び火が付いたりして私たちクラブ員は興奮気味で、夢中になって実験を楽しんだ。特に、酸素の中では細い鉄線までも花火のように光を放ちながら燃えてしまうという事実は、少年の心にも火をつけることになった。

 

 

 

  • 家での追実験 ~「世紀の大発見?」~

理科クラブの顧問は須江先生といった。実は私の亡き父と同じ、肺結核を病んだことがある先生で、何と療養所で父と同室だったという。時には、個別にその頃の父の話などもしてくださった。

 

さて、酸素発生実験である。須江先生は、学校の理科室で用いた薄い過酸化水素水と二酸化マンガンが、家庭ではそれぞれ「オキシフル」、「乾電池内部の黒い粉」であることを補足説明してくださったので、家に帰るやいなや、追実験を試みた。まず、消毒用のオキシフルが十分あることを確認し、使用済みの乾電池を壊し始めた。確かに黒い粉末を得ることができた。

 

 

 

発生する酸素は学校で教わった水上置換法で捕集した。容器は佃煮の空き瓶だったように記憶している。炎を消した線香がポッと音を立てて炎を上げ、また、荷札を見つけ出し、そこについていた細い針金がパチパチと花火のように燃えてしまう事実を再確認して楽しんだ。

と、その時である。鼻を突くあのアンモニアの刺激臭がするではないか。自分が行った実験では、分解すれば酸素を発生させるオキシフル(過酸化水素水)と、アンモニアとは縁がないはずの乾電池内の黒い粉末(二酸化マンガン)しか使っていない。ところが紛れもなくアンモニアの気体も発生したのである。少年の心は踊った。これは世紀の大発見だと思った。なぜなら、アンモニアとは無縁の物質を使ってアンモニアを発生させたのだから「無から有を生じさせた」ことになるのだ。もはや少年の関心は酸素を飛び越えていた。「世紀の大発見」で世界中の話題になるのではないかとワクワクしながら、翌日意気揚々と須江先生に報告した。

「先生、僕は酸素を発生させる方法で、アンモニアもつくり出してしまいました。アンモニアとは関係のない材料からつくったのですから、大発見ですよね。」

 

この時、先生は不思議そうな顔をして、実験の手順をひとつひとつ確認された。そして、少し調べてみるとおっしゃって数日が経過することになった。

 

結果、乾電池を壊して取り出した黒い粉が純粋な二酸化マンガンではなく、そこに乾電池で使われている塩化アンモニウムという物質が混ざってしまっていて、そこからアンモニアが発生したと考えられるという説明であった。

 

 

  • 無から有だから大発見だと考えた少年の論理

というわけで、残念ながら「大発見」にはならなかった。しかし、早計ではあったが「無から有はあり得ないのに、その事実を確認したとすれば世界的に注目される『大発見』になる。」と思考した少年の論理は、今考えても我ながら見事なものだと思う。

そして、無から有なんてあり得ないことだからと、少年の「大発見?」を一蹴することなく、少年の気持ちを大事にしながら付き合ってくださった須江先生に感謝したい。

 

 

この体験はやがて理科教師になっていく歩みと無縁ではなかったような気がしている。