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Vol.16 講演『不揃いの木を組む』から」~1~

【 コラム 】 2022.07.13

学びの応援コラム

楜 澤  晴 樹

令和4年 7月 13日

NO.16 「講演『不揃いの木を組む』から」 ~1~

 

平成25年のこと。佐久教育会定期総集会にて、日本が誇る宮大工の小川三夫棟梁より「不揃いの木を組む」と題した講演を拝聴した。同じタイトルの小川氏の著書を読まれた方もおられるかと思う。氏のひと言ひと言は、問いの形で発せられたわけではないのに、自らに問う内容が何と多くあったことか。多くの示唆を与えていただいた。

 

教員向けに話された訳だが、子育て、人材育成に広く通じるお話としてその概要をお裾分けしたい。本号と次号の2回に分けて紹介させていただく。

 

 

講演「不揃いの木を組む」から

講師 : 鵤(いかるが)工舎前舎主 小川三夫棟梁      (要約・文責 楜澤)

 

 

  • はじめに

私は「無駄口をたたくな」と言われて育ってきた。よって「うまく」は語れないかと思う。

仕事柄、忙しい時代のスピードには乗れないが、今日も、木が少しずつ太っていくような感覚で話をしたい。NHKの「ようこそ先輩」に出演したことがあるが、生徒に語るには、生徒がもつ倍のエネルギーがいると感じた。先生方、疲れていてはダメ。疲れていると判断が鈍る。

 

 

○ 宮大工の道へ

昭和36年、高校の修学旅行で法隆寺を訪れた。1300年という時を経ていること自体、私を圧倒した。この感動をもとに、宮大工になりたい旨父に話したら、「川を遡るような考えだ。流れに従うような道は考えられないか。」と言われたが、最後は認めてもらった。

昭和41年(18歳)、西岡常一棟梁の門を叩いたが、すぐには入門できずまずは飯山の仏壇づくりで修行した。44年西岡棟梁に弟子入りし、宮大工の修行を始めることになったが、はじめは家事労働をしながら仕事を覚えるという日々だった。

西岡棟梁には、まず道具箱を見せろと言われ、箱を開けたところ、私の道具は放り出された。その後納屋の掃除を命じられたが、実はそこに棟梁の道具が置かれており、一流の道具を目にすることになった。「これから1年は刃物研ぎだけだ。」という言葉にひたすらついて行った。

 

 

○ 木の話

・今は多くが植林で育てられる。苗を育て、本植えするときに逆に(南向きだった側を北向きに)植えると、木にねじれが生じる。

・元気な木が互いに影響を受けながら(ある程度の制限を受けながら)伸び合うと、木はまっすぐに成長し、そういう木からは「良質材」が得られる。それに対して、四方八方に自由に枝を張れる環境で育った木は、ずんぐりむっくりの木になるが、中に、「名木」が生まれることもある。

・檜の中でも、「1000年の木」となれるのは、栄養状態の悪い岩場などで時間をかけて育ったもの。木曽檜でも、(栄養状態がそこそこいいので)600年で中に腐れが生じる。吉野の檜だと350年位か。

・東大寺には巨大な松の梁が2本ある。当時、海岸から60km離れた場所から時間をかけて運ばれたもの。今の運搬は速くてダメ。木は寝かせておく期間が重要で、そこで木の癖が出る。木はあばれさせてから使うもんだ。

・環境が急に変わって育った木は「あての木」と言う。あての木はあばれるが、あての木だから使えるという使われ方もある。

 

 

○ 弟子の話

・飯をつくらせると仕事の段取りのよさが見えてくる。おもしろいことに町場で育った若者は料理する時に冷蔵庫のふたをバタバタさせる。田舎で育った若者は冷蔵庫不要だ。

・掃除をするということは、動きながら考える訓練になる。

・整理整頓は当たり前だが、目に見える物を整えるだけじゃなくて、頭の中を整えたいもんだ。

・皆でカラオケに行ったことがある。英語の歌を歌った太郎(仮名)は、中学の通信簿で英語が1であったことを、「0がないもんでついた1だ」と語って皆を笑わせた。こういう人間は若者の毒気をとってくれる。

・「うちの子は器用だから」と売り込んでくる方がいるが、訓練なく器用だという子は頭の中が器用なだけで、あまりほめたもんじゃない。こういう子は、例えば30cmの直角定規でその延長線から10m規模の直角をとろうとする。不器用な子は、本当に10mサイズの直角定規をつくる。家を建ててもらう身になると、後者の方が安心じゃないだろうか。

 

 

○ 弟子に対して

・簡単に教えることは甘える人間を生むこと。教えずに放っておく。先輩がきれいに鉋がけをするのを見ていて、「削りたい」と本気で思うのを待つ。その時に最高の切れ味の鉋を貸す。すると鉋の刃の研ぎ方が変わる。

・無駄だと思う時間にも意味がある。事を急ぎ、先走って教えないことだ。ただし、大前提として、学ぼうとする雰囲気の中にいることが肝心。

・素直さがなぜ大事かというと、教える方も学ぶ方も疲れないからだ。また、素直な人間は、できる、できないという波がなくなってくる。

・怒る際には、「気づいた時にズバッと怒る」ことが大事。ただし、自分が心を磨いておかないと怒れない。逆に褒める際には、思い出したように褒めることが大事。

・個室ではなく大部屋で長い時間(年月)過ごすことで、耐える力、辛抱する力がつく。皆と同じ目的をもって気遣うことのできる人間が育つ。力持ちの子は自然に重い方を担ぐようになる。これでなきゃ、長い時間かけての製作はできっこない。

・人を「育てる」のではなく、人は「育つ」と考えたい。ただしその環境があればの話だ。

 

(次号に続く)