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Vol.11「点字体験の講師の驚きの事実」

【 コラム 】 2022.06.01

学びの応援コラム

楜 澤  晴 樹

令和4年 6月 1日

NO.11 「点字体験の講師の驚きの事実」

 

以前、我が自慢の ’FOREVER CAR’ 誕生の経緯を紹介しながら、「自分ごとの問題」を見つけて解決していく学習がとんでもなくおもしろいという話をさせていただいた。

さて、その話の続きにもなることだが、我がスーパーカーは、子どもたちをはじめいろいろな方々から高評をいただいた。本号ではその中のお一人、内山勝重氏について、その迫力ある生き様の一端を紹介したいと思う。氏は、岩村田小学校に点字体験学習の講師としてお迎えした方である。

 

○ はじめに

生まれつき視力がなかったという内山氏、そして今はほとんど視力を失ったという奥様が点字体験学習の講師として来校された。このお二人のお人柄の魅力もあって、子どもたちは身を乗り出して点字を打つ体験に没頭した。自分で打った名前を内山先生のところに持っていって読んでもらう。それが正しいとわかると「やったー」と声を上げて大喜び。ご夫妻は、顔をほころばせながら、「○○という名前かな。最近の名前はなかなか凝っているね。」と子ども一人一人に寄り添いながら成就感を大事にした体験学習を進めてくださった。

さて、内山ご夫妻にはお帰りになる前に校長室にお寄り願って歓談させていただいた。そこで伺った氏の生き様はあまりに驚異的で、完全に度肝を抜かれてしまった。読者諸氏にもお裾分けしたい。

障害の困苦を乗り越えるという言い方はもはやあてはまらないような気がした。話し言葉のスタイルでいくつか氏のエピソードをお伝えしようと思う。

 

 

○ 驚きの事実

(1)体験を重視した母の教え

◇「母は目の見えない私を、とにかく実物にたっぷりとふれさせた。物にさわらせながら、これは何というもので、どういうはたらきをするかなど、時間をかけて教えてくれた。」

◇「今日の点字もそうだが、子どもたちが見たり聞いたりするだけにとどまらず、実際に点字を打つ体験をしたことに大きな意味がある。」

 

 

(2)分解したり組み立てたりしてみなければわからない物の仕組み

◇「鉱石ラジオを買ってもらった時、どうして音が鳴るのか知りたくてばらばらに分解した。もちろんその後ちゃんと元通りにした。」

◇「鉱石ラジオはイヤホーンでなくては聞こえないが、スピーカーから音が出るラジオを作りたくて『5球スーパー』の製作に挑戦した。真空管の働きはすばらしいと思った。」

◇「真空管からトランジスターの時代になったが、真空管で理解していたことが通用した。PNP接合だとか、NPN接合というのも、分解や組み立てを繰り返しながら理解した。」

◇「盲学校を卒業する時、自作のテレビを寄贈してきた。」

 

 

(3)暗闇でのハンダ付け

◇「夜中に暗闇でハンダ付けをしていたときのこと。訪れた知人があわてて電気をつけてくれたが、私には同じことであった。」

 

 

(4)具合の悪くない「病気」(奥様からいただいた談)

◇「我が家では今も電気器具の修理は主人がやってくれます。世の中には具合が悪くなくても『病気』の人はいるもので、主人は何か製作を始めると食事もろくにしないほどです。ご飯が冷めるといっても、猫舌だから冷たい方がいいとはぐらかされてしまいます。」

 

 

○ おわりに

ところでこの歓談をさせていただいた折、校長室には我がスーパーカーを展示してあったので、見えないのにテレビまで自作してしまうという内山氏に、是非とも「みて」もらいたくなった。

壁にぶつかったら自動的にバックしてくる車にするために、レールを転がる金属球で前進と後退のスイッチを開閉する仕組みを考えたことについて、氏には手で触っていただきながら私から説明した。氏は、レール上の球を手で転がしながら、前進、後退のモーターの動きを確かめられた。驚いたことに、レールの中央を高くして球が必ず両端まで転がるような仕組みを作ったことは私から説明しなかったにも関わらず、見事に見破ってしまわれた。「これはすばらしい仕組みですね。見事な車です。」とのお言葉。

 

視力がなくても複雑緻密な電気回路を組み立ててしまう氏と意気投合させていただいた貴重なひとときであった。全盲の氏が、視力がないことを全く障害だとは感じさせないその迫力ある生き様にふれて、ごまかしの多い自分が恥ずかしくなった。