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Vol.10「家庭学習の充実に向けて」(2)

【 コラム 】 2022.05.25

学びの応援コラム

楜 澤  晴 樹

令和4年 5月 25日

 

NO.10 「家庭学習の充実に向けて」 ~2~

 

  前号で、家庭学習が「やらされる勉強」ではないようにしたいものだと申し上げた。ただしそこでも若干触れたが、特に小学校低学年では、家庭学習の中身が宿題への取り組みに終始する場合が多く、学びの質は基本的に宿題の内容に左右される。いわゆる「習ったことの練習」が主になると思われるが、そこで大事にしたいのは、書けるようになったり、できるようになったりする喜びとセットで勉強を進めることである。家族の関わりとすれば、書ける、できる、わかるようになりたいという内発的動機を高めたり、よりよくなっていることを評価したりして応援することが中心となろう。そうやって負担感なく学習習慣をつくっていきたいものである。

 

さて、本号では、小学校高学年以上、特に中学生の家庭学習を充実させるための取り組みについて、2つの実践例をもとに一考する機会を提供したい。

 

○ 「私の勉強法」を紹介し合おう!

外務省の派遣でリオ・デ・ジャネイロの日本人学校に勤務したときの実践例である。私は中学部の担任をさせていただいた。日本人学校に学ぶ子どもたちのほとんどは、日本からの海外派遣社員や外務省関係職員の子女で、我がクラスの生徒は中1のスタート時点で27人だった。

中2になってからだと思うが、各自で「私の勉強法」をまとめ、それを冊子にして紹介し合い、自分の勉強法改善に役立てようではないかという提案をした。家庭での時間の使い方や教科別(国、社、数、理、英)の勉強方法、また、テスト勉強をいつから始めるかなどが個性豊かにまとめられた。

各自が改めて自分の家庭学習を見つめ直し、そして友から学ぶ機会とした。他から指示されてではなく、友の取り組みを参考にしながら自分の家庭学習のあり方に課題を見出し、改善策を考えた。ある親御さんからは、「下手な参考書より参考になった」と好評を頂いた。主体的に学ぶ力の涵養に結構貢献できたのではと振り返っている。

 

○ 自分の家庭学習計画を立てよう!

教頭時代、ある中学校でのこと。学力を向上させるために全校でドリルの時間をとったらどうかという声が職員から上がった。結論を申し上げると、ドリルではなく、家庭学習の計画を立てる時間をとることにした。実態調査から、子どもたちの家庭学習が質、量ともに憂うべき実態にあることが明らかになったからである。学校では授業改善を進めるが、同時に、それと両輪を成す家庭学習を充実させることが急務であった。毎金曜日、教科の授業が終わった後、全学級で30分の時間をとった。翌週1週間分の家庭学習計画を各自が立てる。担任は相談してくる生徒の助言に当たった。教科の研究室に相談に行くことも可能にした。教務主任を中心に作成してもらった「1週間単位家庭学習計画表」が有効に活用された。中学校に入学した新1年生には、その計画表を活用して家庭学習を充実させるためのガイダンスを行い、校長先生には年度当初のPTA総会に先立って、この取り組みの意義を説明し家庭の協力を求める講話をしていただいた。

 

次に紹介する1年生のある女子生徒の声が、その成果をよく物語っている。

「私は、家に帰って机に向かうのがこんなに楽しいと感じたことはこれまでありませんでした。宿題を済ませた後、その日の自主勉強で何をやるかがはっきりしているからです。今日は何をやろうかなと考えて、ボーッと時間を過ごすことがなくなりました。」

中学で行うテストは、小学校時代に少なからず体験したかと思われる「行き当たりばったりの力試し」ではない。テスト範囲が示されて、周到な準備をして本番に臨む。計画的な家庭学習が本格的にものをいうことになるのだ。

 

○ 主体的に取り組む家庭学習にするための3大ポイント

 肝は、学習計画を立てることにある。その計画の出発点は何か。それは、自分の課題をはっきりさせることである。前号で紹介した「自己理解」に当たる。ここで、楜澤流3大ポイントを整理しよう。

 

 

  • 「自分の弱点は何か」・・・・・・・・・自己課題の洗い出しをすること
  • 「どうやったら弱点克服成るか」・・・・学習方法を決め出すこと
  • 「いつまでに何をやるか」・・・・・・・学習計画表(※)をつくること

(※歩みながら計画修正が必要なこともある)

 

 

これら3つのポイントに沿って動こうとする際、お子様の実態により教師や保護者の助言が必要なこともあるが、くれぐれも子どもの自己肯定感や自律感をへこませないようにしたい。①自己課題を明確にして、②それを改善するための学習計画を立てて、③その計画実現のために自己コントロールしていくという歩みは、主体的に学ぶ自分づくりの歩みであり、未来予測が困難と言われる変化の激しい時代を生き抜くための資質・能力の要素として、今後一層大事にしたいものである。長期休業などは、家庭での自由になる時間をどう自分づくりに充てていくか、計画を立てる力や実践力を磨く絶好の機会でもある。

 

最後に、以前紹介した益川敏英氏のこんな話も添えておこう。

「謎に立ち向かい、自分で考えて答えを導き出すことはとても魅力的である。その探究を進める際、私はこうすれば答えが出るという見通しをもって計画的に仕事(研究)をしている。そうして必ず結果を出している。