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Vol.8「自分ごとの問題」

【 コラム 】 2022.05.09

学びの応援コラム

楜 澤  晴 樹

令和4年 5月 9日

NO.8 「自分ごとの問題」

 

探究の過程を歩んで問題解決を進める学習で特に大事にしたいのは、学習者が、解決しないではいられない問題を見出す(またはそういう問題に出合う)ことである。

 

○ 教師向け実験実技講習会の開催

またまた私自身の学習エピソードになるが、ぜひ紹介したいおもしろい話がある。

私は教育学部の出身ではないので、教員免許は高校と中学の理科である。主に中学校で教鞭を執ってきた。しかしながら定年退職前の3年間は、県教育委員会から異動して初めて小学校にお世話になった。(念のため申し添えると、校長はその校種の免許がなくても可なのである。)佐久市の岩村田小学校であった。余談になるが、当時同校は児童数約1,100名、教職員数70名弱の過大規模校で、その後平成27年に佐久平浅間小を分離新設校として2校に分かれ、今日に至っている。

 

この、岩村田小学校はCST(Core Science Teacher)拠点校の指定をいただいていた。簡単に言うと、大学で優れた理科の指導者として認定された教師が、理科教育の充実のために活躍する拠点となる小学校という指定である。夏季休業中のある日のこと、同校でCSTによる実験実技講習会を開催したところ、市内外から多数の先生方が参加され、理科室は研修を楽しむ教師たちの熱気に包まれた。

 

○ モーターで動く車をつくろう

この日、私も受講者の一人に入れてもらい、「モーターで動く車」の製作を楽しませていただいた。

 

まず、ダンボール風のプラスチック板をカットしてシャーシを作った。そこに、モーター、電池ボックス、車輪を取り付け、いよいよ配線。周りを見渡したところハンダ付けをしている先生はいなかったが、私はこだわってハンダ付けにした。ところが電池ボックスの端子に結線した際、熱で融けたプラスチックが導通を不安定にすることが判明。少し苦戦したため、他の先生方よりわずか遅れて完成にこぎつけることとなった。

 

この時点で、すでにテスト走行を終えていた先生が、「校長先生、ちゃんと走るか試してみないと」と言いながら走行路の交通整理をしてくださった。基本設計は電池を入れてON、はずしてOFFという原始的なもの。

 

「はいよ」と電池を入れて走らせた。マイカーは見事な走りを見せ、5mほど先の壁にぶつかって止まった。その走りを見た先生方が拍手をしてくださったが、電池が入ってスイッチはONのままである。マイカーのうめき声が聞こえてくるようであった。

ところが、である。誰一人として5m先で動くに動けないでいる私の愛車に手を出してくれる人間がいない。私は駆け寄って愛車を救い、電池をはずした。

 

○ 解決せずにはいられない問題

さて、思いやりある行為が期待できない現実に出遭った私は、ここで新たな問題意識をもつことになる。何としても解決したい「自分ごとの問題」だ。

「壁にぶつかったら逆走行して戻ってくる車はできないだろうか。それを繰り返すような車は・・・。」であった。思考が進む。

まず問題を、「壁にぶつかる度にモーターを逆回転させるようなスイッチの仕組みはどうすればよいだろうか」と整理し、あれこれと知恵を絞った。

しばらく考えているうちに、一筋の光明がみえた。「レールを転がる玉で前進と後退の2つの回路を交互に開閉するスイッチができるのではないだろうか」というもの。

 

結論を申し上げると、このIdea は見事に結実した。家に持ち帰り、食事も忘れるほど夢中になって製作に没頭。遂に完成を見た。(写真)

 

 

プラスチック製レールの両端に回路を開閉するアルミホイル端子を貼る。もちろん一方が前進用の回路、他方が後退用。そのレールを進行方向と一致するようにシャーシに固定し、そこを金属球が転がる。進行方向に向かってレールの後部で前進回路をONにした金属球は、車が前進して壁にぶつかると、前方に転がって先端まで行く。転がり始めると前進回路がOFFとなり、転がって行き着いた先で後退用回路をONにしてくれるという優れものである。レールの中央部を高くしてあるので金属球は必ずレールの両端に移動し回路を開閉してくれるのである。

 

○ ‘Forever Car’誕生

夏休み明けの2学期始業式の校長講話は実験付きで大いに盛り上がった。

自分から問題を見つけ、知恵を絞って解決していく学習はとんでもなく面白いことを、私自身のスーパーカー製作の追究を例に話した。1,100名が車の動きを見ることができるように、実験走行をビデオカメラで捉え、拡大動画をスクリーンに映した。2つの壁の間を自動的に行ったり来たりする車に全校割れんばかりの拍手と歓声が起こった。

話の最後に、このスーパーカーに名前をつけて欲しいと投げかけたところ、100名余の応募があった。6年生男子が考えてくれた ‘ Forever Car’ に決め、2学期終業式の日に表彰させていただいた。

 

講話後大分長いこと、校長室は目を丸くした子どもたちで大賑わいであった。