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Vol.7 「主体的な学びと読書」

【 コラム 】 2022.04.28

学びの応援コラム 


令和4年
4月 28日                                                                                   晴

NO. 「主体的な学びと読書

~ ノーベル物理学賞受賞益川敏英氏が語る「読書」 

                              

 佐久市図書館では、「読書通帳」という事業を平成26年から行っている。銀行の通帳に似ているが、自分の読書履歴が記帳される。市内の中学生以下のお子様には、希望者に無償でげしている。通帳1冊には図書216冊分が記帳され、通帳5冊達成者には教育長表彰、10冊達成者には市長表彰が行われる。各方面、利用者の皆様から大変好評をいただいている人気の事業である。

 ところで、私は教育長在任中、この5冊達成者表彰に当たり、ノーベル物理学賞を受賞された益川英氏(昨年逝去)のエピソードを添えて読書の歩みを称え、応援歌を送ることにしていた。本号では、その話の概要を紹介し、読書意欲の喚起に資することができたらと考えた。

 

○ 益川敏英氏との出会い

 

それは平成24年8月1日のこと。私は信州理科教育研究会の会長として同会が共催させていただき開催となった「キッズサイエンス特別講演」に出席した信大工学部を会場に、お迎えした講師は、なんとノーベル物理学賞受賞された益川敏英先生であった。

「私は意地でも、そして信念をもって宿題はやらなかった。しかし本はよく読んだ。

こんな益川節が炸裂する講演、参加者時間の経つのも忘れて聴き入った宿題の話は、誤解なきように後ほどその深意について補足させていただく

演題は、「明日を担う子どもたちへのメッセージ」で、ご自身の学び方や生き方を、主に参加した子どもたち向けの語りでお話ししてくださった。我々教育に携わる者にとっても、大変考えさせられることが多く、学ぶということの意味を改めて認識する機会にもなった。

 

○ 本好き少年のエピソード4つ益川先生の言葉を楜澤が要約

 

「私の父親は、本当は電気技師を志望していたが、戦後の混乱期に砂糖屋を始めた。その砂糖を入れていた南京袋が痛んでくると父はそれを私にくれた。これ(南京袋)を売りに行くと結構いい小遣い銭になった。それをためて古本屋に行くのが至極の楽しみだった。シリーズものの数学の本がほしかったときは、南京袋から得た資金で買えるようになるまで、何度も何度も古本屋に足を運んで、まだ売れてないことを確かめた。」

 

「当時(小中学生の頃)も、グループで調べ学習をするために図書館に行くことがあった。調べる本は直ちに決まり、調査はすぐに終わった。その後が楽しかった。自分の意志で選んだ本を開くときには手が震えた。」

 

「中学時代に図書委員に立候補した。その理由は、新刊本が真っ先に読めるからであった。」

 

「中学の卒業文集には、皆将来の夢などを記したが、私のだけが読書感想文になってしまった。理由は、『星の進化』という本にあまりにも感動したから。」

 

○ 「宿題はやらなかった」ことの深意

に紹介したが、この講演のテーマは「明日を担う子どもたちへのメッセージ」である。そのメッセージの中で、氏は何度となく「これは真似しないでくださいね。」と断りながらも、「宿題は信念もってやらなかった」などと豪語されたわけで、一時司会の方も苦笑しておられた。その深い意味を解すると、本コラムでこれまで述べてきたことにも通じるころをとらえていただけるかと思う

益川少年は、授業で、教科書の先読みをしていれば答えられそうな質問には応答しなかったそうである。自分は考えてから答えるので、既に知っている者よりは時間がかかったと、誇らしげに振り返られた。

勉強をやらなかったのではなく、「やらされる勉強」、「考えることを要しない勉強」を嫌い、主体的に学ぶおもしろさをたっぷり味わった少年時代を自負する同氏の言葉なのであった。

 

○ おわりに

 

「私の専門は理論物理学だが、謎に立ち向かい、自分で考えれば答えが出るところが魅力」と語る科学者が、「・・・だが、本はよく読んだ」と本当に何度も強調された。

主体的な学び、主体的な生き方と読書とは切っても切れない縁がありそうだ