NEWS

Vol.5 「見えやすいOUTPUTと見えにくい INPUT」~1~

【 コラム 】 2022.04.24

学びの応援コラム

楜 澤  晴 樹

令和4年 4月 24日

NO.5 「見えやすいOUTPUTと見えにくい INPUT」~1~

第4号では、これからの時代ますます重要になるであろうPISA型「読解力」を取り上げ、それがどんな能力を意味するのかを説明させていただいた。やや教育行政的な色合いの濃い説明を展開してしまったと反省しているが、私たちが普段用いている読解力とは異なる点について理解を深めるお手伝いができたとしたら幸いである。

繰り返しになるが、大きく異なるのは、テキストを読み解くというINPUTだけでなく、思考力、判断力、表現力を駆使してのOUTPUTの力も求められるという点である。

 

 

○ INPUTとOUTPUTは総合的に高まる

 

ところで、前号で示した文科省の補足説明の中に、「考える力」を中核として、「読む力」「書く力」を総合的に高めていくことが重要である、という記述があったことをご記憶だろうか。

「読む」「書く」を広げて、私はそれぞれINPUTとOUTPUTに相応させて述べているが、本号と次号で、3つのエピソードを紹介しながら、この両者をセットで考えていくことの重要性について一考していただけたらと思う。特に、子どもが仕上げた作文などの見えやすいOUTPUTに対して、それを生み出すもととなった、見えにくいINPUTを「みる」心を大切にしたい。その寄り添いは、子どもの主体性を増幅し、育むことにもつながるひとつの歩みになるのではないかと考えている。

 

 

○ 小3男児の俳句に学ぶ

 

小学校の校長を務めていたある年の5月、連休明けだったと記憶している。3年生のある学級で編集した自作俳句集「春」が届いた。4月、新年度が始まると「春を見つけよう」という学習が、幼・保・小多くの年齢や学年でよく展開される。そんな中、この学級では見つけた春を俳句にまとめるという学習を進め、「春」を完成させた。いただいた句集をじっくりと鑑賞した直後、表紙の題名「春」のとなりに、「生命満開」と筆を走らせた。

 

さて、同句集には33人の力作が編集されていたが、やはり桜の開花に心躍る句が圧倒的に多くみられた。この小学校の周りには桜の大木が何本もあった。そうした中、ひと際独特の光を放つ句があった。ある男児が詠んだ次の作品である。

 

担任の先生に尋ねると、まず、桜満開の中、校庭周辺を散策して情報収集したそうだ。そして続けて行った国語の授業で俳句作りに挑戦。1時間ではなかなか完成できないお子さんもいたこと、練り上げる時間も必要と考えたことから宿題とし、後日の提出とされた。

 

桜の葉  にょきにょき出てきてこんにちは

 

宿題提出期限の4月下旬のこと、この男児から担任に申し出があった。

「先生、おもしろいことを見つけたので、最初に提出した俳句を変えてもいいですか?」担任は、もちろん受け入れた。

「どんな作品か楽しみにしているよ。」

時は、見事に桜の花が散った後であったが、それゆえに少年は大発見に至る。新たな創作意欲が湧いた。

このときの「テキスト」は、身の回りの自然。みんなに注目された桜の花が散ってしまった後、新緑の葉が知らぬ間に出揃って目に飛び込んできた。少年は大興奮である。そしてこの新たなINPUTが、個性豊かなOUTPUTを生んだ。「にょきにょき」と若い葉を出した生命感あふれる桜に「こんにちは」と結句。お見事。

 

「春」の俳句集に、初夏の季語となる「葉桜」を詠むのは、・・・などとつまらぬ講釈を付さない担任も立派だった。そして、後日校長室に招いた少年に私の感動を伝えた。

「素敵な俳句に出逢わせてもらった。桜の花は多くの人々の目にとまるけど、君はその花が散ってしまった後の桜の変化を見逃さなかったんだね。桜の生命(いのち)大発見だ。君の驚きは、私の心にも響いたよ。ありがとう。」

 

少年は満面の笑みで校長室を去った。