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Vol.4 PISA型「読解力」

【 コラム 】 2022.04.22

 学びの応援コラム 

楜 澤  晴 樹

令和4年 4月 22日

NO.4 PISA型「読解力」

NO.4 PISA型「読解力」

今から20年ほど前、「PISAショック」と呼ばれる実態が文科省をはじめ学校教育関係者の間で大きな問題となった。ご記憶の方も多いかと思う。何がショックだったかというとPISA(Programme for International Student Assessmentの略)と呼ばれる国際的な学習到達度調査で、日本の生徒(被験者は高1)の「読解力」が、参加国中14位と低かったことである。

「読解力」とカッコ付で表したのは、私たちが理解している普通の読解力とは大きく異なるからで、PISA調査で求められるこの力は、とりわけ未来予測が困難だと言われる変化の激しい時代を生きていく上で重要になる。(後に説明する)その後、我が国ではこの力をPISA型「読解力」と称して、単なる読解力と区別して用いることが多くなった。お子様が通っておられる学校等から関連する説明があったかもしれない。

 

本号からしばらくは、このPISA型「読解力」に関わって発信してみたいと思う。

 

○ PISA調査について

PISA調査は、OECD加盟国を中心に15歳の生徒を対象に抽出で実施されている。3年ごとの調査で、日本は2000年から参加している。「PISAショック」が起こったのはPISA2003においてであった。

調査内容は数学的リテラシー、科学的リテラシー、リーディングリテラシーの3分野に分かれており、そのリーディングリテラシーが、本号で問題にしているPISA型「読解力」だ。2000年実施では8位だったものが14位に落ちてしまった。自由記述の問題における無回答率の高さが顕著であったとのこと。他の数学的リテラシーと科学的リテラシーはまずまずの上位であり、この14位のときの得点が参加国の平均レベルではあったものの、世界のトップクラスの気概と実績をもつ我が国にあっては大問題であった。

 

その後、リーディングリテラシーでも上位をマークすることもあったが、最新のPISA2018ではまた15位と振るわなかった。なお、2015の調査からコンピューター画面での解答になるなどの変化があり、前の結果との単純な比較は妥当性を欠く恐れもある。

 

○ PISA型「読解力」とは

 

このPISA型「読解力」について理解を深めていただきたいというのが、本号の主目的である。先にも述べたが、これからの時代、とりわけ重要になる力である。すでに理解されておられる読者諸氏は再確認のスタンスでご一読いただければと思う。

 

文科省も重大な課題ととらえ、その後の学習指導要領でも育成すべき大事な学力として力説されるようになった。なお、2005年に同省から示された「読解力向上プログラム」の中では、PISA型「読解力」について次のように定義されている。

 

PISA型「読解力」 = 自らの目標を達成し、自らの知識と可能性を発揮させ、効果的に社会に参加するために、書かれた文章や資料を理解し、利用し、熟考する能力

※ 文章や資料から「情報を取り出す」ことに加えて、「解釈」「熟考・評価」「論述」することを含む

※「考える力」を中核として、「読む力」「書く力」を総合的に高めていくことが重要

 

広辞苑では読解力を、「文章を読んでその内容を理解する能力」としている。私たちが普段用いている読解力というのはこれである。ところが、PISA型「読解力」は、そこに新たな要素が2つ加わる。

ひとつは、読解(理解)する対象が文章だけではない点だ。人の話や、グラフ・表などの資料であることも含まれる。よって文章や資料をひっくるめてテキストと呼ぶことが多い。もうひとつは、テキストを読解(理解)して自分の中に取り込むというINPUTに加えて、その内容に基づいて自分の考えを書いたり発表したりするといったOUTPUTも求められるという点である。

 

ここで具体的なテスト問題を例示して、そのOUTPUTあたりについてみていただけたらと思う。令和3年実施の全国学テ(文科省)の問題から一例を挙げ、概説する。

 

 

小学校国語 問2 (令和3年実施 全国学力・学習状況調査から)

相川さんの学級では、身近にある便利なものについて調べています。相川さんは、面ファスナーを選びました。次は、相川さんが読んだ【資料】です。これをよく読んで、あとの問いに答えましょう。

このリード文に続いて、「面ファスナー」と題した1200字ほどの文章及び関連する絵図が【資料】として与えられ、4つの設問が続く。特に※を付した、設問3と4に注目されたい。

設問1 【資料】の文章が、何について、どのように書かれているか、用意された4つの選択肢から選ぶ問題。

設問2 【資料】中、比較表現で使われている「~より」と同じ使い方の文例を4つの選択肢から選ぶ問題。

※設問3 面ファスナーの作者メストラル氏は、何をヒントに、どのような仕組みの面ファスナーを作り出したのか、解答条件に従いながら作文して解答する問題。字数の条件は、50字以上80字以内。

※設問4 相川さんは、【資料】を読んで、面ファスナーが宇宙でも使われていることについてまとめていると導入しながら、そのまとめを相川さんに代わって作文して解答する問題。字数の条件は、50字以上70字以内。

 

※設問4では、「相川さんがやろうとしていることは、あなただったらどのように文章でまとめますか」と問われているわけで、先述のOUTPUTも加味された「読解力」が求められているのである。(下線部分は問題文そのまま)

 

 

○ 未来予測が困難だと言われる時代にあって 

今後ますます未来予測が困難な社会、時代になっていく。我々人類が初めて出遭う問題も少なくないだろう。その解決に当たっては、言うまでもなく、理解していること・できることをいかに活用していくかが重要になるわけで、よって、基礎的・基本的な知識及び技能だけでなく、それらを活用して課題を解決するために必要な思考力、判断力、表現力等の育成が一層重視されることになる。

先に紹介した全国学テもそうだが、中学校や高校の最近の入試で、この「活用」につながる能力をみる問題が大きな存在感を示している。PISA型「読解力」は、広い意味でその能力のひとつと考えてよかろう。言うまでもないが、国語の教科に限った話ではない。