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Vol.95「『明日へ』への礼状」
【 コラム 】 2024.11.13
学びの応援コラム
楜 澤 晴 樹
令和6年11月13日
NO.95 「『明日へ』への礼状」 |
長野県飯山市ご出身の化学者、東京大学名誉教授の北澤宏一氏が逝去されて10年になる。世界的にも名が知られた氏は、科学技術振興機構(JST)理事長や福島原発事故民間調査委員会委員長なども務められ、その偉業はもちろん今日も生き続けている。書き尽くせないほどの業績を残された方であるが、特に私たち長野県民の多くは、信濃毎日新聞に連載されたコラム「直言曲言」(平成5~11)、「フロントライン」(平成20~22)で馴染みが深い。先生のコラムに多くを学ばせていただいた。
北澤先生には、佐久の教育会館でご講演いただいたこともあるが、偉大な化学者としてだけでなく、改めてその人間的な魅力に引き込まれた。先生のお話を直接拝聴できたこと、またその後出張で東京に向かう新幹線の中で偶然先生にお会いし言葉を交わせたことは、誠に貴重であった。
お元気でご活躍のことと思っていたので、平成26(2014)年9月、先生の突然の訃報には本当に驚いた。そのショックも消えない中、3年の年月が過ぎたある日、先生の奥様が編集された遺稿集「明日へ」が送られてきた。先に紹介した信毎連載のコラム原稿を収録したものがその本編となっている。私は、再び先生にお会いできたような気持ちで読み入った。
さて、本号ではその折、私が奥様に宛てた礼状の一部を紹介しようと思う。そこに述べた北澤先生の生き様の一端が、私たちの「学び」の向かうところに大きな示唆を与えてくれると考えるからだ。
〇 「明日へ」を贈呈いただいて(奥様宛ての礼状から)
拝啓 ~略~ この度は、北澤宏一先生の遺稿集「明日へ」をお贈りいただき感激しております。誠にありがとうございました。信濃毎日新聞コラムを楽しみに拝読させていただいたこと、また、佐久の教育会館でご講演いただいたこと、そしてその後たまたま後日東京に向かう新幹線の中でお行き会いしお話できたこと等、様々な想いを重ねながら読ませていただきました。奥様の深い想いを込められてのおまとめに心より敬服でございます。
3年前、先生の突然の訃報に接し、その驚きは未だに去りませんが、しかしこの遺稿集に出逢って、先生がずっと私どもの心の中に生き続けていることを改めて実感しております。
実は、小生は長野県の中学校の理科教師として長く教鞭を執っていたこともあって、北澤先生のご講演に登場した原子間の結合エネルギー等についても馴染み深い話題でありましたが、先生は専門外の者が聴いても腑に落ちるように配慮して話されており、そのことも大変印象深く心に残っております。
現在、佐久市の教育行政を預かっておりますが、「明日へ」にまとめられた北澤先生のお考えや憂い、希求されるところは、次代を担う子どもたちにも伝えたいものだなと改めて咀嚼しております。
一流の、そして本物の科学者は、科学技術の社会に及ぼす影響についても、何と責任ある知見を積み重ねておられることでしょう。企業にとって、利益追求は当然のことですが、そのプロダクツが子どもたちの人格形成に与えるマイナスの影響について考えられているだろうかと、疑問を抱いてしまう実態が少なくありません。「消費者が対処すべき問題」で済ませてはならないと思います。先生は、そこにメスを入れておられます。先生の教え諭すところが地球規模で普遍することを願って止みません。 ~略~ 敬具
平成29年8月吉日
佐久市教育長 楜澤 晴樹
北澤 邦子 様
〇 「明日へ」の紹介
2部構成になっている。第1部には、「北澤宏一さんから皆さんへ」として先述のコラムが収録され、第2部には、「私達から宏一さんへ」として、北澤先生の同僚や先生のご指導を受けた皆さんによる、先生を偲んでのメッセージが寄せられている。
2017年5月13日 初版発行
北澤 宏一 著
北澤 邦子 編
制作・印刷 株式会社アドスリー