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Vol.90「覚えようとするな」

【 コラム 】 2024.09.04

学びの応援コラム

楜 澤  晴 樹

令和6年9月4日

 

NO.90 「覚えようとするな」

 

前号で、本論に入るための導入として、私が初任2校目の中学校で数学を担当していたことに触れた。先日、何と40年以上の時を経ての再会になるが、その数学の授業を受け持ったクラスの教え子と行き会う機会があった。互いに(特に私は)風貌は大きく変わっていたが、話し始めたらあっという間に時の隔たりが消えた。

 

彼は今、ある会社の管理職となって活躍されているが、当時私が数学の学び方として何度も力説していたことは、高校進学後、特に理科や数学の勉強で活きたと感謝しながら話してくださった。そんなうれしい声をいただいたこともあり、過大評価であることは重々承知しながらも、当時私が数学の教科担任として生徒諸君に強調した2つの学び方についてお伝えしようと思う。

 

〇 覚えようとするな

彼が真っ先に語られたのは、私が「覚えようとするな」と指導したことであった。覚えておけと指導する先生が多い中で、最初は驚いたとのこと。

少々説明させていただこう。数学が得意でないとか、おもしろくないという生徒に、結構共通してみられる傾向がある。それは、数式の意味を理解しようとするのではなく、「覚えよう」とする傾向だ。例えば、小学校から学んでいるお馴染みの速さと時間と距離に関する問題でいうと、距離 ÷ 速さ = 時間 という関係を理解することなく、まず暗記したはずの式を一生懸命思い出そうとして手こずっている生徒に出会うことがある。意味を理解していないので、記憶が曖昧であれば出発点となる正しい式を想起できないのだ。もちろん正確に暗記していれば、それもありではあるが・・・。

記憶の再生からではなく、速さ、時間、距離の3者の関係が理解できていれば、その中のどれを聞かれても、その場で考えて解を導くことができる。

 

「覚えようとするな(その場で考えればできる)」というこだわりは、教え子の彼が振り返っておられるように理科でも大事にしたいことである。例えば、物体の密度や、溶液の濃度なども、それがどういう物理量、数値であるか理解できていれば、その場で考えれば解決できてしまう問題ばかりなのだが、「質量 ÷ 体積 だったかな、体積 ÷ 質量 だったかな?」などと暗記した式を思い出そうとして迷っている情況をしばしばみる。意味がわかっていれば問題解決を主体的に進めることができ、学習が楽しくなるのだが。

 

なお、意味がわかっていることで、覚えようとしなくても覚えてしまうことが多く、それによって問題解決のスピードが増す。そのレベルになるとすばらしい。

 

〇 こうすれば必ず解けるという一般化を

これは、家庭学習等で問題演習に挑む際に大事にしたいことである。とにかく行き当たりばったりで問題に向き合って、できなかった問題の解法を質問してくる生徒がいることが気になった。質問してくることはすばらしいが、どう考えて解こうとしたかを尋ねると、そこが曖昧な場合がほとんどであった。「こうすればよいと思ったが、・・・。」という解決の見通しがもてていないのである。

連立方程式を例に補足してみたい。未知数1つ(x)の方程式は、等式の変形のルールで必ず x=  というかたちにできる。即ち解ける。よって、未知数2つ(x,y)の連立方程式も、何らかの方法で未知数1つ(xだけ、またはyだけ)の方程式にできれば解けるという話なのだが、そういう流れに乗れていないつまずきがみられるのだ。現象とすれば、加減法、代入法という作業は行おうとするが、その操作の意味が十分捉えられていないので、式を操作しているうちにその目的を見失ってしまうといった事態だ。

 

「こうすれば必ず解ける」という一般化した見通しをもたずに問題に対峙していると、たまたまできた、できなかったで終わることが多い。本コラム87号で述べた「たまたま注意報」の発令対象だ。

なお、問題演習で、自分が一般化している考え方を補強しなくてはならないことに気付く場合もあり、それこそ「たまたま」ではない貴重な学びを得ることになる。